東京プロトコロ 第7回 テーマ「嘘」

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「天使なんかじゃない」

 こんにちは。早川阿栗といいます。今回から執筆担当者が順番にコラムのテーマを決めていくことになりました。今までは違ってたんかい、ってことに気づいちゃう人は気づいちゃうかと思いますけど、今回はひらたさんがテーマを指定してくれました。

今回のテーマは、「嘘」です。

僕は嘘をつくのがすごい下手です。思いっきり目が泳ぐと思います。あり得ない方向に視線が動いていると思います。普段からキョドりがちで、何言ってんのかわかんないのに、より挙動不審になること間違いないです。その自覚があります。
その自覚があるからこそ、嘘つくときに、よりキョドります。キョドジャイアントです。強そうなのでジャイアントつけてみました。あ、でもちょっと思ったよりも強くなりすぎたので、ちょっと弱めに、キョドジャイアント(幼虫)、ってのにしておきます。それでですね、キョドジャイアント(幼虫)の僕にとっては、嘘っての

 って、キョドジャイアント(幼虫)、ってなんなんだ。責任者誰だよ、って心底いらだちを隠せないんですけども、(幼虫)ってつければいい、って発想の干ばつっぷりに情けない限りなんですけども、何が言いたいかってね、僕って、すぐどきまぎするよね、ってことなんです。嘘つくときは、ものすごいどきまぎです。強そうな言い方をすると、メガどぎまぎで(中略)

って、メガどぎまぎ味噌仕立て(おいしい)、ってなんなんだ。

いやいや、いよいよ何がなんなのか、まるでわからんことになってますけども。中略の間に何があったんだよ、何、味噌を用いているんだ、何、おいしくなってんだ、って話なんですけども。このお戯れをあと3回やったら、いよいよ何が出てくるのか、自分で自分が怖い!

 えー、それこそ怖がっている意味がわかりませんけどもね、話を本筋に戻させていただくと、嘘の話なんですよ。
っていうかね、例え本当のことでも、これ相手が聞いたら嘘だと思わるんじゃないかなあ、って思うと、僕はそういうときでも、思いっきりキョドります。もうね、それくらい、嘘をつこうとすると、っていうか、嘘について意識するとダメです。
下手すると、「ご飯が好きです」、ということさえ、キョドって言うことになるかもしれません。それくらい、嘘だと思われるかも、って思うと、どぎまぎしちゃうんです。やだ! ご飯がおいしくないだなんて、JAの上のほうから、やいやい言われちゃう! それこそどぎまぎしちゃう!
JAの上のほうとお前に何の繋がりがあるんだ、ってご指摘こそ圧倒的に正しいとは思いますけれどね、それくらい、僕は、嘘ってのにね、敏感な自意識過剰っぷりなのです。

 よく芸能人がテレビで、ベッドとかお風呂場とかから長い髪が出てきて、彼女に「これ、なあに?」と聞かれた、みたいなベタなエピソードとか話してるじゃないですか。
あのですね、今回、それに近い話をしようと思います。僕という小僧は、圧倒的に、まるでそういうタイプではないので、あり得ないでしょ、って思われるかもしれないし、単純に気持ち悪いエピソードかもしれないですけど、まあ、嘘がテーマなので、話半分に聞いてください。

 大学生のときだったんですけど、一人暮らししていた僕の部屋に彼女が遊びに来てたんです。ワンルームの狭い部屋で、不精な僕は普段から彼女が来ようが来るまいが、やたらと散らかしまくっていたんです。まあ、でもそれもいつものことだから今更とやかく言われたりはしないんです。
んで、コタツに入って、うだうだとどうでもいいことを喋っていたんですけど、いきなり彼女が、あれ? とか言って何か拾ったんですよ。

「あれ? これトリンプのやつだ」

 値札って言うんですか? タグって言うんですか? そういうやつがね、落ちてたみたいなんですよ。んで、トリンプってのは、天使のブラでお馴染みの天使のあれですよ。しらねーけど。しらねーけど、天使のあれなんですよ。
でね、ぞわぞわぞわぞわぞわ、と、これまで体感したことのないタイプの鳥肌が立ちました。それでもね、彼女の言い方はきつく責め立てる感じではなくて、まるで、あ、今日のいいともダンカンだ、っていうくらいのね、普通のトーンでしたよ。

 いや、わたしにとって、ダンカンは普通じゃない! 非日常だ!
 
そんなご指摘もあるでしょうが、逆に言わせて欲しい、非日常のダンカンってなんだ。お祭り的なあれか。あれかの意味もわからんけど、祝祭としてのダンカンか。って、それもまたいよいよ意味がわかんなくなってるけども。
 とにかくね、そんな普通のトーンの言葉が逆に、ますます僕を焦らせました。もうね、思わず、うぎゅう、って声が出たと思う。まじで、ぎゃふん、とか言いかねないくらいの衝撃だった。

でね、そもそも、何故トリンプの値札が落ちてるんだ、って話なんですけど、いや、僕のほうこそそれが一番の疑問なんですけど、話は前日にさかのぼるわけですよ。

 それは、前日にね、女友達とね、遊び出かけて、普通に百貨店的なところで買い物してたわけなんですよ。んで、その友達がね、ちょっとブラ見るから、って言ったわけですよ。
いや、その時点で女友達じゃねえだろ、って話なんですけど、違うんです、確かに女友達なんです。僕はね、その女友達だけじゃないんですけども、ほんとによく、男として見れない、みたいなスタンスのことをね、物心ついたころから、ずっと言われ続けてきましたよ。
いや、男として見れない、ってセリフなんてドラマでも言わないだろうよ、って話だし、実際に目の前で言われたら、こっちサイドとしてはね、これでもか、って勢いでね、性器出す出さないの話ですよ。
いや、それ完全に趣味じゃないか、って反論がかなりの確率で生じかねないですけど、そんな趣味ないから。いや、逆に、ふうん、ってされても、困るから。何よ、その無機質なものを見る目は! 有機だから! 完全に有機生命体なんだから! 

でね、有機生命体そのものの僕としてはですね、とにかくね、こちとら、ブラ見るから、とか言われてもね、何言ってんの? って話ではあったんですけども、まあ、とりあえず言えることって言えば、じゃあ、見なよ、ってくらいなもんですよ。見るな! オレが見る! なんて言ったら意味わかんないし、こっちだって別にブラジャー売り場を見てて楽しいわけじゃないですからね。
今危うく、べ、べつにこっちだって見て楽しいわけじゃないんだからね! とツンデレっぽく書きそうになって、顔こそ真っ赤になりましたけど、こ、これが潜在的願望ってやつか! と思う思わないの騒ぎなんですけども、とりあえず、別のフロアいるわ、って言ったわけですよ。それがまあ、僕のごく普通な対応でしたよ。
 んで、その日、普通に僕の部屋に来て、まあ、普通に話してたんですけど、って今なら、そういうのさえよくない、って思うし、自分の彼女に対して真摯じゃないとか、浮気とかそういう気持ちや事実がないなら特に、少しでも疑いのあることはしないほうがいい、って思うんですけども、当時は若かったんです。
って単純に若さのせいにしたいわけじゃないし、そういう、女友達に何とも思われない自分、みたいなのもね、どこかで楽しんでいたんですよ。
何とも思われない、とか言われながらも、彼女はいるんだからね、みたいなね、なんていうんですか、安っぽくて歪んだ驕りと、間違ったアイデンティティの誇示、みたいな気持ちがあったんですよね、きっと。そういう意味で、若かったな、って思うんです。そんなものに何の価値があるのよ、って話ですよ、まじで。何、女友達が新しいブラ(いい加減自分で略すのが恥ずかしいわ)を目の前で出して、それが何でもないという自然な状況の自分、ってのを肯定してんだ、そんなオレってありだな、みたいなこと思ってんだよ、って話なんですよね。
 いや、だからと言って、じゃあ、何かすればいいのか、って話じゃなくてですね、そういうのって、自分の問題じゃないですか。異性に友達だとしか思われない自分とか、そういう関係とかって。異性との友達関係があり得ない、とかそういう話じゃないし、そういうのは一般論じゃなくて、各個人のそれぞれの相手との関係でしか言えないから、そういう抽象的なふわふわしたところで、オレって変わってるよねえ、みたいな風を出すなよな、って話なんですよね。
 無理やり、冬にセロリをマフラー代わりに首に巻いて、オレ、いつもこのスタイル、どう? 変わってるでしょ? みたいなね、そんな自己演出、自己設定はいらないんだ、ってことなんですよ。
 じゃあ、セロリの代わりに下仁田ネギだったら大丈夫ですか? って、それ、下仁田以外のネギなかったんかい、って話だし、いや、そこじゃないし、ネギを首に巻くのは風邪対策じゃん! おばあちゃんの知恵袋じゃん! お大事にね! ってことにもなるとは思うんですけども、例えもまるで制球難みたいなことになってますけども、ワイルドピッチこそ続出してますけども、そういうね、自分、っていうものの見せ方とか捉え方、間違ってるよね、って話なんですよ。

んでね、なんか、必死に書いてて自分で怖いんですけど、なんとか今はそうじゃない、っぷりを醸し出して、思い切り自己肯定しようとしてるもくろみが丸バレだとは思うんですけどね、そのときにね、女友達が、僕の部屋で買ったブラを出して、チェックしてたんです。つうか、僕にどんなのを買ったのか見せてくれたわけですよ。ほら、みたいな感じでね。

 うわー、思ったよりも天使じゃん!

 いや、そんなことは言ってないし、言う意味もわかんないし、そもそもね、トリンプのことなんてね、正直わかってないですよ。むしろね、あ、これがそうなんだな、ってそのとき初めて認識したわけですよ。そういうもんじゃないですか、男の人って。女の人に、グンゼのフィット感がさあ、って言っても通じないもん。いや、僕もよく知らないけど。
じゃあ、グンゼのしなやかさは群を抜いているよね、と断言したらいいのか、って言うと、絶対そんなことはないですけども。父イコールグンゼ、という子供のころからのイメージがずっと強かっただけに、グンゼと言うと、グンゼに身を包んだ父のことしか思いだしませんけど。なんか、モモヒキみたいなのも(それはグンゼのかしらないけど)履いてて、家でだらけてるときは、上も下も白一色に身を包んだ父のことを思い出しますけども。何なの、そのイメージカラー。何なの、そのコンセプト。何なお、そのフィット感!

 えーと、結果的に、グンゼ推し、みたいなことになってますけども、とりあえずね、友達がブラ購入、っていう前日のできごとから、話は翌日に戻ります。翌日の、彼女の、あ、トリンプだ、発言に話が戻ります。
 僕はね、その瞬間、なんで、値札落ちてんだ? 意味わかんないんだけど! って思ったし、ああ、これは絶対だめだ。何もやましいことはないけど、これは絶対だめだ、って思いましたね。正直に話しても、絶対信じてもらえないだろうな、っていう。だって、値札だもん。値札切り取ってるじゃん。一旦、むきだしのブラ見ちゃってんじゃん! 
 もうね、頭の中で、前の日、どうして切り取ったんだっけ、僕それ見てたっけ、もし値札を切ってたら、それゴミ袋に入れたのかな、ん、でもなんでそんなコタツんとこに落ちてんだろうな、じゃあ、最初からゴミ入れてないのかな、それならそれでなんでだよ、気付かねえのもおかしいんだから、ってかトリンプってなんだよ、もう絶対友達にブラ買わせない! 二度とブラ見たくない! ブラのこと二度と考えたなくない! っていうか、なんで? 値札、なんで? なんでなの? みたいなね、ことをね、ぐるぐると考えてたら、どうしていいのかわからなくなってくるわけですよ。何か言わなくちゃ、って思うとどんどん頭が真っ白になってきます。
 彼女の一言から、ほんの一瞬の間に、こうしたことがものすごい勢いで通り過ぎて行きます。どんどんパニックになっていくわけですよ。何か言わなくちゃ! もう、早く、何か言わなくちゃ......。

 あ、それ、おかんのやつ。

 出た。
 家族。

 何、改行してんだ、って感じですけど、出ました、困ったときの家族発言。まあ、当時関西に住んでいたからと言って、関西っ子気取りで、おかん呼ばわりはないだろ、って話ですし、今もときどき、おかん、と口にするときに、恥ずかしくはなりますけども、それよりも何よりもね、関西から実家、むちゃくちゃ遠いからね。特急で6時間以上かかってたから。母親が来てたことなんて、まるで話してないし、そもそも彼女とは頻繁に会ってるわけだから。そんなにさっと来てすっと帰るようなおかん、それ、おかんなのか、って話ですよ。
 ほんとにね、自分がね、こんな、ひどい言い訳するとは思いませんでしたよ。無理じゃん、おかんだけは無理じゃん。おかん、絶対、トリンプのこと知らないはずだもん。トリンプ、って口にしたことすらないもん。
 っていうか、ほんとにおかんのならおかんので、それ、問題ありありじゃん。おかんのブラの余韻が残ってるの、絶対だめじゃん。おかしいじゃん。意味わかんないじゃん。

 結局ね、ただの嘘でもおかしいのに、本当の意味でやましいことがなくても、僕には嘘がつけないんだ、っていうか、嘘とかのレベルじゃないよね、もはやそれ、嘘ついてますよ、ってアピールしてるみたいなことになってるよね、ってことをね、つくづく実感したできごとだったのです。

 えー、その言い訳のあと、どうなったのかはまた別の機会に。

いや、誰も興味ねえだろうし、結果、彼女には全部正直に話したけど。誠意を込めて話したけど。でも、一回おかんを挟んだことによって、話はより複雑に絡まるわけなんだけども。そのときの僕の話こそ、ぐだぐだにものすごいキョドジャイアント(成虫)だったわけだけども。やった、キョドジャイアント、成虫になれたんだね!

 最後はムシキング的なニュアンスで、このコラムを終えられそうな予感がしていますが、あのとき以来、トリンプのCMを見るたびに、ぞわぞわします。まじで、ああああああ、と声をあげたくなります。そして、見てもいない、おかんの下着姿が頭にちらつくのです。そんな姿のおかん、少しも天使なんかじゃないよ。

 あの、最後の最後で、矢沢あい先生の大ヒット漫画みたいなことになってしまって、すみません。猛省しています。

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